Tシャツの生地の種類を調べると、天竺、度詰め、スラブ、杢と聞き慣れない言葉が並び、どれを選べばよいのか見当がつかなくなります。Tシャツの生地の選び方でつまずくのは、こうした言葉が「編み方」「糸」「厚み」「表情」という別々の軸の話なのに、ひとまとめに並んでいるからです。ここでは、Tシャツ用の生地を軸ごとに整理し、そのうえで天竺・度詰め・スラブ・杢といった代表的な種類が、見え方・着心地・プリントとの相性でどう違うのかを比べます。最後に、ブランドの見せ方から生地を選ぶ順番をまとめます。
Tシャツの生地は、四つの軸に分けると整理できる
Tシャツの生地を説明する言葉は多いのですが、大きく分けると次の四つの軸のどれかに属しています。
- 編み方:天竺、鹿の子、フライスなど。生地の構造を決める。
- 糸の太さと質:番手、単糸・双糸、コーマ糸・カード糸など。肌ざわりと表面のきれいさを決める。
- 厚み(重さ):オンス。透け感やしっかり感を決める。
- 表情:度詰め、スラブ、杢など。同じ天竺でも見た目と風合いを変える。
編み方の違いは天竺・鹿の子・フライスの違い、糸の太さは番手の意味、厚みはオンスの選び方でそれぞれ扱っています。この記事では、四つめの「表情」の軸を中心に、Tシャツで最も使われる天竺のバリエーションを見ていきます。実際にOEMの打ち合わせで出てくる生地の名前は、「度詰め天竺」「スラブ天竺」「杢天竺」のように、天竺に表情の言葉がついた形が多いためです。
天竺|すべての基準になる標準の生地
天竺は、表がなめらかで裏に小さなループが並ぶ、いわゆる「ふつうのTシャツ生地」です。市販のTシャツの多くはこの天竺で作られており、生地屋の在庫としても定番の色・厚みが揃っていることが多い生地です。表面が平らなのでプリントがのりやすく、ロゴやグラフィックを主役にしたいTシャツと相性がよいとされています。
他の種類を選ぶかどうかは、この天竺を基準に「もっとしっかりさせたいのか」「無地で表情を出したいのか」「色に深みを出したいのか」と考えると判断しやすくなります。
度詰め天竺|目を詰めて編んだ、ハリのある生地
度詰め(どづめ)とは、同じ糸を使いながら編み目を通常より詰めて編んだ生地のことです。目が詰まっているぶん、生地に密度が出て、ハリとしっかり感が生まれます。透けにくく、型崩れしにくい傾向があり、洗濯を繰り返しても形が保たれやすいと言われることが多い生地です。
見た目は表面がきれいで平らなので、プリントの発色がよく、細い線も出しやすい傾向があります。ボックスシルエットやオーバーサイズのように、生地のハリで形を作りたいデザインに向いていると考えられています。
注意点としては、一般的な天竺より生地が硬く感じられることがあり、伸びにくい分だけ着脱時の首の伸びやすさや着心地に差が出ることがあります。また、同じオンスの一般的な天竺と比べると、糸の使用量や編み立ての手間から生地代がやや高くなる場合があります。「厚くしたい」のか「目を詰めたい」のかは別の話なので、しっかり感が欲しいときは、オンスを上げるのか、度詰めにするのかを工場と相談して決めるのが確実です。
スラブ天竺|糸の太さにムラをつけた、表情のある生地
スラブとは、意図的に太さのムラをつけて紡いだ糸(スラブ糸)のことで、それで編んだ天竺をスラブ天竺と呼びます。太い部分と細い部分が不規則に現れるため、生地の表面に自然な凹凸と陰影が出て、無地でも「味」のある見え方になります。ナチュラルな雰囲気や古着のような風合いを狙うブランドで選ばれることが多い生地です。
スラブ天竺の魅力は、プリントを入れなくても1枚で成立しやすい点にあります。無地のTシャツを主力にしたいとき、天竺だと物足りなく見える場合に、生地の表情で差をつける選択肢になります。
一方で、表面に凹凸があるため、細い線や小さな文字のプリントはにじんだり、かすれたりすることがあります。大きめのモチーフやあえてラフに見せるプリントなら気になりにくいのですが、精密なグラフィックを載せたい場合は天竺や度詰めのほうが向いています。また、スラブの出方は糸のロットによって多少変わることがあるので、追加生産で表情が少し違って見える可能性があることも知っておくとよいでしょう。
杢天竺|色の違う糸を混ぜて、深みを出した生地
杢(もく)とは、色の違う繊維や糸を混ぜて紡いだり、撚り合わせたりして作った糸のことで、杢グレーのTシャツがその代表です。単色で染めた生地とは違い、近くで見ると細かな色の粒が混ざっているため、色に奥行きが出ます。グレーだけでなく、杢ネイビーや杢ブラウンなど、さまざまな色があります。
杢天竺は落ち着いた印象になりやすく、日常着としてのTシャツやスタッフ用のTシャツでも選ばれやすい生地です。汚れや色落ちが目立ちにくいと感じる人も多く、着回しの多い用途に向いていると考えられています。
注意点は、プリントの色の見え方です。下地に細かな色の混ざりがあるため、単色の生地と同じインクを使っても発色が少し沈んで見えることがあります。淡い色のプリントを載せるときは、下地に白を引くなどの工程が必要になる場合があります。また、杢の色は糸の配合で決まるので、生地屋の定番色から選ぶことが多く、オリジナルの杢色を作るには数量が大きくなることが多い点も押さえておきたいところです。
四つの生地を並べて比べる
| 生地 | 見え方・風合い | 向いているTシャツ | 気をつけたい点 |
|---|---|---|---|
| 天竺 | なめらかで平ら。標準的な着心地 | プリントを主役にしたい。定番として幅広く使いたい | 単体では他と差がつきにくい |
| 度詰め天竺 | ハリがあり、透けにくい。表面がきれい | 形をきれいに見せたい。細い線のプリントを出したい | やや硬く感じることがある。生地代が上がる場合がある |
| スラブ天竺 | 表面に凹凸と陰影。ナチュラルな表情 | 無地で勝負したい。ラフな雰囲気を出したい | 細かいプリントに向きにくい。ロットで表情が変わることがある |
| 杢天竺 | 色に細かな混ざりがあり、奥行きがある | 落ち着いた日常着。着回しの多い用途 | プリントの発色が沈むことがある。色は定番から選ぶことが多い |
なお、これらは組み合わさることもあります。「度詰めの杢天竺」のように、表情の軸が二つ重なった生地も存在します。また、これらとは別に厚みの軸があるので、「薄手のスラブ天竺」も「厚手のスラブ天竺」もあり得ます。生地の名前を聞いたときは、どの軸の話が含まれているのかを分けて考えると混乱しません。
生地を選ぶ順番:ブランドの見せ方から決める
生地の種類を知ったうえで、どう選ぶかです。生地から入るより、Tシャツをどう見せたいかから逆算すると決めやすくなります。
1. 主役はプリントか、生地か
グラフィックやロゴを前面に出すなら、表面が平らでプリントがきれいに出る天竺か度詰め天竺が候補になります。無地やワンポイントで生地の質感を見せたいなら、スラブ天竺や杢天竺のように表情のある生地が候補になります。ここが最初の分かれ道です。
2. シルエットを生地のハリで作るか
ボックス型やオーバーサイズのように、生地が体から離れて形を保つデザインでは、度詰めや厚手の生地のほうが狙った形になりやすい傾向があります。逆に、体に沿う柔らかい落ち感を出したいなら、一般的な天竺や薄手のほうが向きます。
3. 売価と原価のバランス
度詰めやスラブは一般的な天竺より生地代が上がることがあります。売価をいくらに設定し、製造費にいくらかけられるかを先に決めておくと、生地の候補が自然に絞られます。この考え方は上代・下代・原価率の決め方で整理しています。
4. プリント方式との相性
プリントを載せる場合、生地の表情とプリント方式の組み合わせで仕上がりが変わります。凹凸のある生地に細かい転写を載せると密着が不安定になることがあり、杢の下地に淡い色を載せると発色が変わることがあります。シルクスクリーンと転写の違いもあわせて確認し、生地とプリントをセットで工場に相談するのが近道です。
5. 初回の枚数で選べる範囲が変わる
生地屋の在庫として定番になっているのは天竺と杢天竺の定番色であることが多く、度詰めやスラブは在庫の色や厚みの選択肢が少ないことがあります。少量で始めたい場合は、まず在庫のある生地から選び、数量が増えてから別注に移るという進め方も現実的です。生地の在庫と最低ロットの関係は生地の「反」とはで扱っています。
工場や生地屋に伝えるときの言い方
生地の種類の名前を覚えるより、「どう見せたいか」「何が気になるか」を言葉にして伝えるほうが、適切な生地を提案してもらいやすくなります。たとえば次のような伝え方です。
- 「無地が主力なので、生地に表情が欲しい。ナチュラルな雰囲気」→スラブ天竺などが候補に上がりやすい
- 「細い線のロゴをきれいに出したい。白でも透けにくくしたい」→度詰め天竺や厚手の天竺が候補に上がりやすい
- 「落ち着いた色で日常的に着られるものにしたい」→杢天竺などが候補に上がりやすい
そのうえで、イメージに近い市販のTシャツを1枚持っていくと、言葉のずれが大きく減ります。「これに近い生地で、もう少しハリを出したい」のように現物を基準に話せると、生地屋も候補を出しやすくなります。生地を指定する場合は、品番で伝えるか、現物を渡すかのどちらかにしておくと、後で「思っていた生地と違う」という食い違いを避けやすくなります。
サンプルで確かめておきたいこと
生地を決めたら、サンプルで次の点を確認しておくと、量産後の「イメージと違う」を減らせます。
- 洗濯後の表情:スラブや杢は洗うと風合いが変わることがある。1〜2回洗って比べる。
- 透け感:白や淡色は、着た状態で肌や下着が透けないかを見る。度詰めでも薄手なら透けることがある。
- プリントの出方:実際に使う方式で試し刷りをして、線のにじみや発色を確認する。
- 首まわりの戻り:伸ばして戻るか。度詰めは伸びにくい分、リブとのバランスも見ておく。
まとめ
Tシャツの生地の種類は、編み方・糸・厚み・表情という四つの軸に分けると整理できます。度詰め・スラブ・杢は、いずれも天竺という同じ編み方をもとにした「表情」の違いで、度詰めはハリとプリントのきれいさ、スラブは無地での存在感、杢は色の深みと落ち着きが持ち味です。
選ぶときは、生地の名前から入るより、「主役はプリントか生地か」「シルエットを生地で作るか」「売価にいくら乗せられるか」「プリント方式との相性」「初回の枚数」の順に考えると、候補が自然に絞られます。イメージに近い現物を1枚用意して工場や生地屋に相談し、サンプルで洗濯後の表情とプリントの出方を確かめる、という流れが、失敗の少ない生地選びの進め方です。