アパレルブランドを始めるときに、多くの方が最初にぶつかるのが「何枚作るか」という問題です。まとめて作れば1枚あたりの原価は下がりますが、売れ残れば在庫として手元に残ります。アパレルの在庫リスクは、小ロットで始める事業ほど資金繰りに直結しやすく、最初の数型でつまずく原因になりがちです。この記事では、Tシャツを例に、在庫リスクを抑えながら生産を回す考え方と、小ロットで回すという選択の中身を整理します。
在庫リスクとは「現金が服の形で止まる」こと
アパレルの在庫リスクというと「売れ残って捨てることになる」という場面を思い浮かべがちですが、実際にはその手前で起きる問題のほうが大きいことが多いです。生産代金は納品前後に支払うのが一般的なため、作った枚数の分だけ現金がTシャツに変わり、売れるまで戻ってきません。
その結果、次のようなことが起こりやすくなります。
- 売れている色・サイズを追加で作りたいのに、資金が売れ残り在庫に止まっていて発注できない
- 保管場所や管理の手間が増え、倉庫代や外部委託費がかかり始める
- シーズンを越えると値下げでしか動かなくなり、想定していた利益が残らない
つまり在庫リスクは「売れ残りの損失」だけでなく、次の一手に使えるはずのお金と時間が止まることでもあります。
原価を下げる大ロットと、在庫を抑える小ロットのトレードオフ
一般的に、生産枚数が増えるほど1枚あたりの原価は下がる傾向があります。型紙の作成や裁断の段取り、プリントの版代など、枚数に関係なくかかる費用が多くの枚数に分散されるためです。この仕組みはTシャツのOEM生産、ロット数と原価はどう決まるのかで詳しく説明しています。
一方で、単価が下がっても、売り切れなければ意味がありません。たとえば単価を下げるために枚数を倍にしたものの半分しか売れなかった場合、少なく作って売り切った場合より手元に残るお金が少なくなることがあります。比べるべきは1枚あたりの原価ではなく、売り切ったときと売れ残ったときに手元に残る金額です。
| まとめて作る | 小ロットで回す | |
|---|---|---|
| 1枚あたりの原価 | 下がりやすい | 上がりやすい |
| 最初に必要な資金 | 多い | 少ない |
| 売れ残ったときの影響 | 大きい | 小さい |
| 品切れの起きやすさ | 起きにくい | 起きやすい(追加生産の段取りが必要) |
| 向いている場面 | 定番化して販売数の見通しが立っている | 最初の1型、反応を見たい新色・新柄 |
どちらが正解というより、ブランドの段階によって向き不向きがあります。販売実績がまだない最初の1型では、小ロットで始めて反応を見るほうが判断を誤りにくいことが多いです。
小ロットで回すための5つの考え方
1. 最初の生産は「検証」と位置づける
最初のロットで利益を最大化しようとすると、枚数を増やす方向に判断が傾きます。最初の生産は、どの色・どのサイズが、どの価格で、どの売り場で動くのかを確かめる検証と割り切ると、枚数を決めやすくなります。原価率が多少上がることを前提に、売価と原価の関係を先に確認しておきましょう。考え方は上代・下代・原価率の決め方が参考になります。
2. 色とサイズを絞る
同じ100枚でも、1色・4サイズで作るのと、4色・5サイズで作るのとでは、1種類あたりの枚数が大きく変わります。種類が増えるほど、売れる組み合わせと売れない組み合わせの差が出やすく、在庫が偏る原因になります。最初は色数を絞り、反応を見てから広げるのが一般的な進め方です。
3. 追加生産までの期間を先に確認する
小ロットで回すうえで重要なのは、売れたときにどれくらいの期間で追加分を作れるかです。追加生産に時間がかかる場合、品切れの期間が長くなり、販売機会を逃します。初回の発注時に、同じ仕様で追加するときの最低枚数と期間の目安を聞いておきましょう。スケジュールの考え方はTシャツOEMの納期と逆算スケジュールで紹介しています。
4. 最低ロットの理由を知って交渉する
工場やOEM会社が提示する最低ロットには、生地の仕入れ単位や段取りの手間など、それぞれ理由があることが多いです。理由が分かれば、生地を在庫品から選ぶ、色数を減らすなど、下げるための相談ができる場合もあります。詳しくは最低ロット(MOQ)はなぜ決まるのかと生地の「反」と最低ロットの関係を参照してください。
5. ボディの選び方で初期リスクを調整する
Tシャツの場合、既製のボディにプリントやタグ付けをする「ありボディ」で始めると、生地から作るフルオーダーより少ない枚数で始めやすい傾向があります。最初はありボディで反応を確かめ、売れ筋が見えてからオリジナルのボディに切り替えるという段階の踏み方もあります。違いはありボディとフルオーダーの違いで比較しています。
生産計画に入れておきたい数字
小ロットで回す場合でも、勘で枚数を決めると在庫が偏ります。生産を決める前に、少なくとも次の数字を手元にそろえておくと判断がぶれにくくなります。
- 販売見込み:どの売り場で、どの期間に、何枚売るつもりか
- 売り切りまでの期間:シーズン内に売り切るのか、定番として長く売るのか
- 使える資金の上限:生産代金に回せる金額と、追加生産に残しておく金額
- 追加生産の条件:最低枚数、期間、初回と単価が変わるかどうか
- 売れ残ったときの出口:セット販売、イベントでの販売、次シーズンへの持ち越しなど
特に「追加生産に残しておく金額」は見落とされがちです。初回に資金をすべて使ってしまうと、売れたときに追加で作れず、小ロットで始めた意味が薄れてしまいます。
小ロットの限界も知っておく
小ロットで回す方法には限界もあります。枚数が少ないほど単価は上がりやすく、選べる生地や加工の幅が狭くなることもあります。また、追加生産を何度も繰り返すと、そのたびに段取りの費用や確認の手間がかかります。
販売数の見通しが立ってきた型は、ある程度まとめて作って原価を下げる、という切り替えも必要です。最初は小さく、売れ筋が見えたら厚くという順番で、型ごとに生産の仕方を変えていくのが現実的です。
まとめ
- 在庫リスクは売れ残りの損失だけでなく、資金と時間が止まること
- 比べるべきは1枚あたりの原価ではなく、売り切り時・売れ残り時に手元に残る金額
- 最初の生産は検証と位置づけ、色・サイズを絞り、追加生産の条件を先に確認する
- 販売見込み・資金の上限・追加生産の条件などの数字をそろえてから枚数を決める
- 売れ筋が見えた型から、まとめて作って原価を下げる方向に切り替える
何枚から始めるのが自分のブランドに合っているか判断がつかない場合は、販売の予定と予算を伝えたうえで、OEM先に複数の枚数パターンで見積もりを出してもらうと比較しやすくなります。