アパレルの生産を工場に頼むとき、間に必ず入るのが仕様書です。アパレルの縫製仕様書の書き方に決まった様式はなく、会社ごとにフォーマットは違います。ただ、どの様式でも共通しているのは「作る人が迷わずに手を動かせる書類かどうか」という一点です。ここではTシャツの生産を例に、仕様書に入れる項目と、伝わる指示・伝わらない指示の差を整理します。
仕様書は「作る人が迷わないための書類」
仕様書は、発注者の頭の中にあるものを、会ったことのない縫製担当者に渡すための道具です。指示が抜けている部分は、工場側が過去の経験から判断して埋めることになります。その判断が発注者の意図と一致していれば問題は起きませんが、ずれていたときに「言った・言わない」になりやすいのがこの部分です。
逆に言えば、仕様書の目的は網羅性ではありません。ずれたときに困る箇所から順に、具体的に書くほうが実務的です。Tシャツのように構造が単純なアイテムでも、身幅・着丈・袖丈・首リブの高さ・プリント位置あたりは、書いていなければ工場ごとに違う仕上がりになることがあります。
Tシャツの仕様書に入れる項目
| 項目 | 書く内容 | 抜けたときに起きやすいこと |
|---|---|---|
| 品番・品名 | 型番、シーズン、カラー名 | 複数型が動くと取り違えが起きる |
| 生地 | 編み地の種類、目付(オンス/g/m2)、混率、色番、生地の規格サイズ(生地幅・1反の長さ) | 厚みや風合いが想定と変わる |
| 寸法表 | サイズごとの各部寸法と許容差 | サイズ感が想定とずれる |
| 縫製仕様 | ステッチの種類と幅、縫い代の始末、首リブの高さ、肩テープの有無 | 見た目と耐久性に差が出る |
| プリント | 方式、色数、版下データ、位置の基準点と寸法 | 位置が数センチ動く |
| 付属 | 織りネーム、下げ札、洗濯ネームの内容と付け位置 | 納品直前に手戻りが出る |
| 梱包 | たたみ方、個包装の有無、入り数 | 納品後の作業が増える |
生地の目付は、オンス表記だけでなくg/m2を併記しておくと海外の工場とも話が通りやすくなります。厚みの決め方はTシャツの生地のオンスの選び方で詳しく整理しています。
伝わる指示と、伝わらない指示
差が出るのは、書いてあるかどうかより「何を基準にした指示か」です。
形容詞ではなく、寸法で書く
「少しゆったりめに」「今っぽいシルエットで」といった指示は、発注者の中では像を結んでいても、受け取る側では再現できません。手元にサンプルや既製品があるなら、それを実測して数字にするのが早い方法です。「このTシャツの身幅+2cm、着丈は同じ」と書けば、解釈の幅はほぼ残りません。
プリントは基準点をそろえる
プリント位置を「胸の中央」とだけ書くと、サイドネックポイント(肩線と衿ぐりが交わる点)から測るのか、衿ぐりの底中心から測るのかで仕上がりが変わります。どこから何cmかを決めて、基準点も一緒に書いておきます。サイズ展開がある場合は、全サイズ同じ位置にするのか、サイズごとに位置を動かすのかも書き添えておくと確認が一往復減ります。プリント方式そのものの選び方はシルクスクリーンと転写の違いを参考にしてください。
寸法は「測り方」までそろえる
身幅ひとつでも、脇の縫い目の下端で測るか、袖付けの一番低い位置で測るかで数字が変わります。寸法表に測定位置の図か注記を添えておくと、上がってきたサンプルの検寸で数字が合わないときに、縫製の問題なのか測り方の問題なのかを切り分けられます。
許容差を先に決めておく
量産は手作業を含む工程なので、指定した寸法に完全に一致させることは想定されていません。そのため寸法表には、各部の許容差(±何cmまでを合格とするか)を書いておく形が一般的です。ここが空欄のまま進むと、上がってきた製品を前にして基準を後から決めることになり、判断が感情的になりやすくなります。
洗濯後の縮みについても同じで、どの程度までを許容するかを先に共有しておくと、検品の基準がぶれにくくなります。
決まっていない項目は「未定」と書く
すべての欄を埋めてから出さなければならない、というものではありません。むしろ決まっていない箇所を推測で埋めるほうが危険で、工場側はそれを確定情報として進めてしまいます。「未定・◯月◯日までに確定」と書いておくほうが、相手も段取りを組みやすくなります。
最初の問い合わせの段階でどこまで固めておくとよいかは、アパレルOEMの依頼方法にまとめています。
サンプルが上がったら、仕様書に書き戻す
仕様書は一度出して終わりの書類ではなく、サンプルのやり取りに合わせて版を重ねていくものです。1stサンプルを見て「袖丈を1cm短く」「首リブを少し高く」と直したとき、その内容をメールのやり取りだけに残しておくと、量産のタイミングで反映漏れが起きることがあります。
修正のたびに仕様書を更新し、版数と日付を入れておくと、どの版で作られたものかを後から追えます。2回目以降の発注で同じものを再現したいときにも、この最終版がそのまま指示書になります。サンプルから量産までの進み方はサンプルから量産までの流れで説明しています。
付属と表示は、生産前に確定させる
織りネームや洗濯ネームは、本体の生産と別の手配になることが多く、後から気づくと納期に影響が出る場合があります。表示の内容には法令で求められる項目があるため、デザインの都合だけで決められない部分もあります。詳しくはTシャツの洗濯表示の作り方を参照してください。
まとめ
仕様書の善し悪しは、書式の見栄えではなく、受け取った人が迷わずに作れるかどうかで決まります。形容詞を寸法に置き換える、基準点をそろえる、許容差を先に決める、未定は未定と書く。この4つを押さえるだけでも、サンプルの往復回数は減らせます。
Tシャツの生産を検討中で、仕様書の書き方や項目の詰め方に不安がある段階でしたら、決まっている範囲の情報だけでもご相談ください。