アパレルOEMは、仕様書と見積もりが固まってから納品までに数か月かかることが少なくありません。その長い期間に起きる行き違いの多くは、技術的に難しい話というより「決めていなかったこと」が後から表に出てくるかたちで起こります。ここでは、アパレルOEMで起きやすいトラブルの事例を整理し、発注前にどこまで取り決めておけば防ぎやすくなるのかを、Tシャツの生産を例にまとめます。
トラブルは「作り始めてから」表に出ることが多い
発注側と工場の認識がずれていても、打ち合わせや見積もりの段階では表面化しないことがよくあります。図面や言葉のうえでは同じものを指しているつもりでも、現物になって初めて「思っていたのと違う」となるからです。
逆に言えば、サンプルが上がる前に言葉と数値で決めておけたものほど、あとで揉めにくくなります。以下の事例は、いずれも発注前の取り決めで起こりにくくできる種類のものです。
起きやすいトラブルの事例
1. 色が思っていたものと違う
最も多い部類のトラブルです。原因は、色の指定方法が曖昧だったことにあるケースが大半です。「黒」「ネイビー」といった言葉だけで進めると、同じ黒でも赤みのある黒と青みのある黒があり、生地の素材によっても見え方が変わります。
防ぐには、色番号(DICやPANTONEなど)で指定するか、現物の色見本を渡し、量産前に生地で色を出してもらって確認する手順を入れるのが確実です。あわせて、「どの程度の差までを許容するか」を先に握っておくと判断が早くなります。染色にはロットごとの振れ幅があり、見本とまったく同一に上げることは難しいのが実情です。
2. 寸法が仕様書どおりに上がらない
Tシャツの身幅や着丈が、指定した数値と数センチ違って上がってくることがあります。ニット生地は編み地が伸縮するため、布帛に比べて寸法が動きやすい素材です。
ここで効くのが寸法公差(許容範囲)の取り決めです。「身幅±1cm、着丈±1.5cm」のように、どこまでを合格とするかを仕様書に書いておきます。公差が決まっていないと、工場は「この程度は通常の範囲」と考え、発注側は「指定と違う」と受け取り、話が平行線になりがちです。仕様書に何を書くかは仕様書の書き方の記事も参考にしてください。
3. 納期が後ろにずれる
生地の入荷遅れ、副資材の欠品、サンプル確認の往復に時間がかかった、といった理由で納期が動くことがあります。注意したいのは、遅延の原因が発注側にあるケースも珍しくないことです。サンプルへの返事が1週間止まれば、その分だけ後工程が押します。
対策としては、着用日や販売開始日から逆算し、確認のための日数も含めてスケジュールを引くこと。加えて「いつまでに何を決めれば納期を守れるか」を工場側と共有しておくと、どちらの遅れかが曖昧になりません。詳しくは納期の逆算の記事にまとめています。
4. プリントの位置や風合いが違う
プリントは「中央」「胸元」といった指定だけでは決まりません。襟の縫い目から何cm下、中心から何cmの位置に、何cm幅でといった数値の指定が必要です。サイズ展開がある場合、全サイズで同じ位置にするのか、サイズごとに寸法を変えるのかも決めておきます。
また、同じ絵柄でもプリント方式によって仕上がりの質感は変わります。厚みのある盛り上がった仕上がりを想定していたのに、風合いの柔らかい仕上がりで上がってくる、といった行き違いは起こり得ます。方式を指定したうえで、可能であればプリントのサンプルを見て決めるのが安全です。
5. 数量が注文どおりに揃わない
1,000枚発注したのに970枚しか納品されない、というケースがあります。これは不誠実な対応というより、業界の慣習として一定の増減を許容する前提で進んでいることがあるためです。生地の取れ高や裁断効率によって、最終的な枚数は前後することがあります。
見積もりの段階で「過不足はどこまで許容されるのか」「不足分の請求はどうなるのか」を確認しておきましょう。販売数が確定しているイベント用途などで1枚も欠かせない場合は、その旨を先に伝えて多めに生産してもらう相談が必要になります。
6. 不良が見つかったときの扱いで揉める
納品後に汚れやほつれが見つかったとき、誰がどう対応するのかが決まっていないと交渉が長引きます。全数交換なのか、不良分のみの返金なのか、いつまでに申し出れば対応してもらえるのか。検品の基準と、納品後の申し出期限を先に決めておくと、双方とも判断しやすくなります。工場側で行われる品質チェックの中身については検品と検針の違いも参考になります。
発注前に決めておきたい取り決め
| 項目 | 決めておく内容 |
|---|---|
| 色 | 色番号または現物見本、量産前の色確認の有無、許容する色差 |
| 寸法 | 各部位の寸法と公差(±何cmまで合格とするか) |
| 納期 | 最終納品日と、発注側が何をいつまでに決めるか |
| プリント | 方式、位置の実寸、サイズ展開時の扱い、色数 |
| 数量 | 過不足の許容範囲と、その場合の請求の考え方 |
| 不良対応 | 検品基準、申し出の期限、交換か返金かの扱い |
| 支払い | 着手金の有無、支払いのタイミングと方法 |
見積もり段階で聞いておくと差が出ること
- 量産前に生地で色を確認する工程は入るか、その費用と日数はどれくらいか
- 寸法の公差はどの範囲で見ているか
- 生地の入荷が遅れた場合、納期はどう扱われるか
- 数量の過不足はどこまで想定しておけばよいか
- 納品後に不良が見つかった場合、いつまでに連絡すれば対応してもらえるか
これらは意地悪な質問ではなく、あらかじめ確認しておいたほうが双方にとって進めやすい項目です。答えが具体的に返ってくる相手であれば、生産中のやり取りもスムーズに進みやすくなります。
まとめ
アパレルOEMのトラブルは、多くが「言葉で書けば防げたこと」から生まれます。色・寸法・納期・プリント・数量・不良対応の6つは、発注前に文字と数値で残しておくだけで、あとの判断がずいぶん楽になります。
初めての生産では、何を決めておくべきかが分からないこと自体が普通です。取り決めの項目立てから一緒に整理してくれる相手を選ぶことが、結果としてトラブルを遠ざける進め方になります。